岩田 岳 国立病院機構 東京医療センター 臨床研究センター 分子細胞生物学研究部
メンバー
名誉部長:岩田 岳
ラボマネージャー:照山 遊
主任研究員:須賀 晶子
主任研究員:潘 洋
研究補助員:峰松 尚子 (WDB)
派遣社員:山本 めぐみ (JAC)
客員研究員:吉武 和敏(東京大学)
客員研究員:中山 真央(埼玉医科大学眼科)
客員研究員:峯岸 ゆり子(有明がん研究所)
客員研究員:木村 至 (東海大学八王子病院眼科)
連絡先
独立行政法人 国立病院機構 東京医療センター 臨床研究センター (感覚器センター)分子細胞生物学研究部
〒152-8902 東京都目黒区東が丘2-5-1
岩田 岳
Email: takeshi.iwata@kankakuki.jp
はじめに
ヒトは外部情報の80%を視覚に依存しており、急速な高齢化と視覚を酷使する生活環境によって視覚障害者は増加すると予測されます。分子細胞生物学研究部では基礎研究者と眼科医が協力して、加齢黄斑変性、家族性の緑内障、遺伝性の網膜疾患群を対象に、原因・発症機序の解明と診断・治療法の開発を行っています。
研究対象疾患
加齢黄斑変性
黄斑は角膜と水晶体によって収束した光が網膜上で結像する領域で、視細胞が集中する、視力を決定する重要な部位です。黄斑が障害される代表的な眼疾患として加齢黄斑変性がありますが、米国では失明率も最も高い難治性眼疾患であり、日本でも急速な高齢化によって患者数は増加しています。我々は加齢黄斑変性の初期病態が優性遺伝で観察される、世界的にも珍しいカニクイザルについて、発症原因の研究や薬効評価を行ってきました。また、日本人の加齢黄斑変性患者は全ゲノム相関解析(GWAS)によって、染色体10番のARMS2-HTRA1領域と強く相関することを発見しました。我々は加齢黄斑変性の患者ではARMS2遺伝子下流の塩基配列の変化によって、分泌型セリンプロテアーゼHTRA1の転写活性が増加することを発見しました。HTRA1を全身で高発現したトランスジェニックマウスでは、加齢黄斑変性に類似した病態が各国研究者との共同研究によって確認されています。
家族性の緑内障と視神経萎縮症
緑内障は網膜神経節細胞の委縮によって発症する、患者数の最も多い眼疾患です。遺伝因子や環境因子が原因と考えられており、加齢にともなって有病率が上昇します。我々は主に家族性の緑内障や視神経萎縮症の原因遺伝子とその発症分子メカニズムの解明や治療法を開発しています。2020年には緑内障(X)と視神経萎縮症(MCAT)の新規原因遺伝子を発見しました。また、正常眼圧緑内障の原因遺伝子オプチニュリン(OPTN)のE50Kノックインマウスを作製し、加えて患者iPS細胞を用いて、病態を再現し、これを抑制する薬を発見しました。
遺伝性網膜疾患
厚生労働省と日本医療研究開発機構 (AMED)の委託研究事業の拠点班として、遺伝性網膜疾患を対象に国内38の大学病院や眼科施設と連携し、Japan Eye Genetics Consortiumを設立し、2011年~2019年までマルチオミックス研究(ゲノム解析、プロテオーム解析、トランスクリプトーム解析)を行ってきました。これまでの結果から日本人の8割の患者は欧米人とは異なる遺伝子変異によって発症していることが明らかになりました。日本人患者の遺伝情報と症例情報をデータベース化し、遺伝子診断や治療法の開発に役立てています。すでにRP1L1、C21orf2、CCT2、LRRTM4などの新規遺伝子を発見しました。解明された多数の新規原因遺伝子については、その発症分子機序を解明するために、変異体タンパク質の機能解析、ノックインマウス、ノックアウトマウス、患者iPS細胞を用いた研究を行っています。
オカルト黄斑ジストロフィ原因遺伝子発見の記者会見
2010年9月9日 厚生労働省合同庁舎5号館
研究内容
症例情報、遺伝情報、血液・唾液検体の収集とデータベースの運用
厚生労働省、AMED研究事業、国立病院機構ネットワーク研究事業として、各大学や国立病院機構病院と連携して症例情報、遺伝情報、血液医・唾液検体を収集し、データベースに登録しています。データベースは難病プラットフォームデーターベースeCatchとGlobal Eye Genetics ConsortiumデータベースGenEyeを構築中です。
ゲノム解析
患者おより親族の血液・唾液検体からDNAを抽出し、次世代DNAシークエンス(全エクソーム解析、ショートリード全ゲノム解析、ロングリード全ゲノム解析によって、原因ゲノム変異の探索を行っています。JEGC研究班では患者、患者親族のゲノム解析を主体としており、より信頼性の高い結果をめざしています。
変異体タンパク質の機能解析
新規原因遺伝子の変異体タンパク質について、その構造変化、タンパク質機能への影響、タンパク質間相互作用、変異体の細胞内での状態を調べています。
患者iPS細胞の作製
我々が発見した新規原因遺伝子によって発症した患者の血液からiPS細胞を樹立し、網膜の細胞へと分化誘導することによって、患者の網膜を実験室で再現し、原因・発症機序解明と治療法の開発に利用しています。
ゲノム編集による疾患モデル動物の作製
ゲノム解析によって明らかにされた新規原因遺伝子についてはゲノム編集技術(ノックイン、ノックアウト)による遺伝子改変マウスおよびカニクイザルを作製し、患者と同じ病態を動物で再現し、その詳細な病理学的観察によって発症機序の解明と治療法の開発を行っています。
国際協力
Global Eye Genetics Consortium
日本人の原因遺伝子変異には、海外を起源としているものが多数含まれていると考えられています。2014年、我々は世界各国の眼科施設と連携して、Global Eye Genetics Consortium (GEGC)を設立しました。現在では約30カ国の眼科施設と情報交換を行い、データベースGenEyeを構築して、国際共同研究体制によるゲノム解析が進行中です。
GEGC全体会議 (ARVO、2024年5月6日、シアトル)
国際学会の開催
≪International Society for Eye Research (ISER)は1968年にオックスフォード大学で開催されてから、2年おきにヨーロッパ、アメリカ大陸、アジア・太平洋地域の順番で開催されてきました。2016年、我々がホストとなってXXII ISERが20年ぶりに日本で開催されました。39か国から1020人が参加し、参加者の約85%が外国人、日本人の参加者も例年の3倍でした。本学会では緑内障、水晶体と白内障、角膜と眼表面、眼のイメージング、眼の免疫、網膜色素上皮と脈絡膜、網膜の細胞生物学、眼薬理学と治療法、網膜の発生、眼の遺伝学の分野について、過去最大の135セッションが開かれ、参加者からは近年の開催としては最も高い評価をいただきました。この学会後もAPAO、ARVO、WOC、ISERなどの国際眼科学会のプログラムや運営に関与しています。
ISER レセプション (京王プラザホテル、2016年9月27日、新宿)
出版物(書籍)
シュプリンガーネイチャー、Advances in Vision Research、第 一~四巻、 編集者: プラカシュ ジアン、岩田 岳
大胆な目標プロジェクトU24、国立眼研究所(NEI)、国立衛生研究所(NIH)、アメリカ
A two-pronged approach to generating novel models of photoreceptor degeneration for regenerative cell therapy
NIH研究費番号: 1U24EY033272
左より、フー・インビン(ベイラー医科大学)、万代道子(神戸アイセンター)、岩田岳(国立病院機構東京医療センター)、佐久間哲史(京都大学)
フー・インビン氏と共同研究者らは、網膜の再生を評価するための 2 つの考えられる戦略を比較する予定です。 最初の戦略では、レーザーを使用して高度な動物モデルの光受容体を特異的に切除します。 2 番目の戦略は、Platinum Talen と呼ばれる遺伝子編集技術を使用し、遺伝子破壊によって網膜から光受容体を選択的に取り除くものです。 後者のアプローチは、網膜色素変性症などの遺伝性網膜疾患で観察される光受容体の段階的な喪失をより正確に描写します。 両方の切除モデルの解剖学的変化を特徴付けた後、幹細胞由来の置換網膜を宿主動物に組み込む能力を評価します。 このプロジェクトでは、佐久間哲史氏率いるチームによるPlatinum Talen遺伝子編集の最先端の専門知識、フー・インビン氏と岩田岳氏率いるチームによる遺伝性網膜変性症および進行性動物疾患モデル、万代道子氏率いるチームによる再生細胞療法の最先端の専門知識が組み合わされる。Audacious Goal Initiative U24, National Eye Institute, National Institutes of Health, Bethesda, Maryland, USA